まさか彼だったなんて…運命の相手と幸せを掴んだ私の話

「ごめん、今度の土曜日も仕事入っちゃった。しばらく遊んでいられる時間はなさそうで」


電話越しに、申し訳なさそうな彼の声。


彼————タカシと付き合い始めてからそろそろ5年になる。


お互いに仕事も任されるようになって、忙しいのは仕方ないのだけれど

“遊んでいられる時間”なんていい方しなくても…。


タカシは休日も返上で仕事仕事。

まるで私との時間は後回しで、暇なら会えるよって聞こえてしまった。


タカシと一緒に過ごせない週末はどのくらい続いているだろう。タカシにとって私ってその程度なのかな。


《結婚》という二文字は常に意識しているけれど…


タカシはどういう気持ちでいるのかな。

私との将来について、考えてくれているのだろうか。


彼の気持ちを確認したいけれど、とにかく会える時間をとることができなくてもどかしい。



巻き戻される時間

土曜日。

今週もまた、一人で過ごす週末…


仕事だから仕方がないのはわかっているけれど、やっぱり寂しいな。どちらかというと一緒に何かを楽しみたいって思っちゃうのは私のわがままなのかな。


結婚したら、同じ屋根の下に住んでいたら、こんな寂しさは生まれないのだろうか…。


「あーーーーーもう!」


ごちゃごちゃ考えていても仕方がない!

せっかくの休日だもん。自分の時間を精一杯楽しまなくちゃ。


そういえば最近、趣味だったカフェ巡りも行ってない。

たまにはゆっくりコーヒーを飲む時間も必要だよね。



わぁ…、懐かしい。

久しぶりに降り立った駅。


街並みの様子はだいぶ変わっているけれど、通りをいくつか越えたところに時間が止まったかのようにたたずんでいる1軒のカフェ。


大学時代は毎日のように入り浸っていたっけ。

みんな、元気かなぁ…


あの頃と変わらない味のコーヒーを口に含むと、記憶の中の景色が鮮明によみがえる。


「…マナミ?」


ふいに名前を呼ばれて顔を上げた私は、声を掛けてきた相手の顔を見たとたん驚いてカップを落としそうになった。



思いがけない再会

「びっくりしたよ。よく来てるの?」

「私は今日たまたま…シンヤこそ」

「俺もたまたまだよ。なんだか急にさ、行ってみようかなって思って」

「そうなんだ!みんなも元気かなぁ。連絡とってる?今度みんなで集まろうよ!」


他愛のない会話をしつつ、私の頭は混乱していた。


シンヤとは大学時代に付き合っていた。


でも、就職を機にシンヤが突然海外に行ってから、連絡をしても会えないもどかしさから、だんだんと連絡もしなくなって…別れ話をすることも相手を責めることもないまま自然消滅していた。


まさかこんなところで再会するなんて。


「マナミ、結婚したの?」


突然のシンヤの質問にドキリとする。


「まだ…だけど。シンヤは?」


「俺?全然!プロポーズする相手もいないよ」


おどけて笑うシンヤを見て、ホッとしている自分に気付く。


私、どうして安心してるの?


自分の中に生まれた感情に、戸惑う。


「あの時マナミと…いや、なんでもない。またコーヒー飲みに行こうよ。お前、カフェ巡り好きだったもんな。」


シンヤ、今でも覚えててくれてるんだ…


私の頭はパニックを起こしたまま、今日の会話や昔のことを色々と思いだしていた。

タカシから連絡が来ないことも気にならないほどに。



再び動き出す時間

シンヤと再会したあの日から、気持ちが落ち着かない。


仕事でも些細なミスが続いている。ダメだ私、しっかりしなくちゃ!


「マナミちゃん、ランチ一緒に行かない?」


先輩の秋山さんが声を掛けてくれた。


おそらく、私の様子がおかしいことを気にしてくれているのだろう。

秋山さんは仕事以外の部分にも気を配ってくれる、公私ともに信頼できる先輩だ。

「最近どうしたの?マナミちゃんらしくないミス、続いてるね。何かあった?」


やっぱり秋山さんはお見通し。

職場の先輩にまで迷惑をかけてダメだぁ。


早く、このモヤモヤ状態から抜け出したい―――


私は秋山さんに包み隠さず今の自分のはっきりしない気持ちを打ち明けてみた。


「わかる~!私も結婚する少し前にね…」


秋山さんは占いのサイトを教えてくれた。

なんと、秋山さんが結婚を決めたきっかけは占いだったらしい。

現実的な秋山さんが…ちょっと意外だけど、彼女の言うことなら信用できる。


その日の夜、サイトを見ていると気になる占いを見つけた。



私の運命の相手はタカシ?それとも…

占いの内容は「信じられないほどそばにいます!あなたを本気で好きな異性」


私の運命の相手はどんな人だろう。

この占いでは運命の人の特徴を教えてくれるらしい。

顔や名前、誕生日、性格まで占ってもらえるんだ。

そう思ったら、どんな結果が出るのか気になって、おもしろ半分でつい占ってしまった。


結果は…

その人はとても爽やかな笑顔が印象的だね。キリっとした二重まぶたで唇も少し厚くて色っぽさがあるね。名前はずばりしっかり根を張った「木」!地に足の着いてまっすぐに伸びていく木ような安定と視野の広さを兼ね備えた人なんだよ。そんな雰囲気が名前からも感じられるはずだよ。たとえば「木」「林」「森」「地」「伸」。そんな感じが名前に使われている可能性があるよ!


…思い当たるところばかりでビックリする。

全てがシンヤと一致する…まさかとは思うけど、やっぱり私の運命の相手はタカシじゃなくて、シンヤなの…?


読み進めていく手が止まらない。さらに続きを読み進めると…


とてもバランス感覚に優れた人だね。物ごとをとても公平な目で見つめることができるタイプで、性別や職業などで人を判断するような人じゃないの。芸術のセンスもあって芝居を観に行くことや音楽を聴くのが好きなはずだよ。


占い結果がいう運命の相手はシンヤそのもの…そんなことって…。そういえば、昔連れてってもらったカフェは夕方から生演奏が始まってすごく雰囲気のあるいいカフェだったな。


シンヤはそういう何気ない2人の時間を楽しむことを大事にしている気がする。


タカシとの関係は、いつもタカシの仕事の合間になんとか時間を見つけて会っていて、なんとなく仕事が一番で、私との時間はそんなに大切じゃないのかな…と感じる。仕事をがんばるタカシを応援したいと思ってきたけど…。


本当は会えないのは寂しいし、もっとゆっくり2人の時間を楽しめる人がいい。


そう思って、はっとした。

私、そういう自分の気持ちに長い間蓋をして、本当に自分が求めていたものから目を逸らしていたのかもしれない…。


抱えていた自分の気持ちに気が付いて、ふっと心が軽くなった。


自分の幸せに素直に―…

あの占いをしてから1年が経った。


「週末、どこに行こうか」

「昔行った生演奏が流れるカフェ、すごく良かったから久しぶりにまた行きたいな」

「あぁ、あそこね。そしたら今週末はそこに行こうか」

「行く行く!」


今、私の隣にいるのはシンヤ。


私のペースに合わせて、私の好きなことに付き合ってくれる。

私もシンヤの好きなことに付き合うのが楽しくて仕方がない。


…幸せって、こういう気持ちのことなのかな…。


あの占いがあったから、私は自分の気持ち、自分が望んでいるものに気付くことができた。

自分らしくいられる、幸せになれる相手を選ぶことができた。


あなたも自分が幸せになるための選択を、間違えないで。