「祐実はそのまま彼と結婚するんでしょ?」
「うーん…なんだかなあ。」
大学時代の友人達との女子会、話題は専ら恋愛トークである。
私には大学の頃から付き合って、今年で5年を迎える彼氏がいる。
私自身、学生のときはそのままこの彼と結婚したいと思っていたが、ときめきもないし、マンネリなのか、なんだかぱっとしない。
結婚する相手ってこんなもんなのかな。
「え~じゃあどうするのよ。グダグダ続けるのが1番良くないよ。」
「ハッキリと別れる理由はないんだけどさ…これでいいのかな。」
いつも通りのはずだった朝
朝の通勤電車の中では、大体エンタメのニュースサイトと、SATORIの12星座占いを見るのが日課になっている。
『51点 おうし座の人は、今日は素直にならないと誰かを失う日です』
占いは基本良いときしか信じないとはいえ、今日はかなり悪いなあ…と何となく見ているうちに降り過ごしそうになり、慌てて降りた。
いつも通り仕事を定時に上がり、携帯を確認すると彼から不在着信が入っていた。
電話が来ることなんて滅多にない。何だろうと思ってかけ直してみると、彼が真面目なトーンで切り出した。
「ちょっと話したいことがあるんだけど、これから会えない?」
別れ話だ、と直感で感じた。彼に不満を抱いていたものの、彼から別れを切り出されると思うとなんだかイラっときてしまった。
「なに?用件あるなら今ここで話して。」
「なんだよ、その態度。じゃあここで言うけど、僕ら別れよう。今仕事が忙しくて、君にかまっている余裕がないんだ。」
「あ、そう。分かった。今までありがとね。」
この電話1本で、付き合っていた5年間があっさり終わってしまった。
これで良かったのかな…
付き合いが長かった分、彼と突然の別れになかなか気持ちが追い付かなかった。
携帯の通知が出るたびに、彼からの連絡かと思って期待してしまう。
本当にあれでおしまいなのかな。彼が戻ってくることはないの…?
その時ふと、彼と別れたあの朝みた占いを思い出した。そういえば、素直にならないと誰か失うって書いてあったっけ…意外に当たってたんだなあれ…。
そう思うと、つい彼のことを考えてしまい、復縁の相性占いを開いていた。
「彼は今自分の選択を悔いています。あなたと復縁したいと言い出すのも時間の問題でしょう。しかし、この復縁はあなたにとって最良の選択ではありません」
最良じゃないって言われても…。そう思いながらスクロールすると目に入ってきたのは
【占った瞬間人生180度変わる】次あなたに起きる出来事~次待つ使命
もう、祈るような思いでクリックしてみた。すると、
あなたは3日後、運命の人と出逢うことになるでしょう。西の方角の運気が良いですね。そして、2週間後にはその人に告白されることになりますよ。
…3日後?3日後も平日だから普通に会社に行くだけだし、ちょっとこの占いは厳しいかなあ。
その人との相性は抜群に良い感じ。と、少し乗り気になっている自分がいたが、我に返り、まさかね、とサイトを閉じた。
新しい出逢いってこれ?
「えー、本日からこの部署に配属になった榊くんだ。彼は先月まで福岡支社にいたやり手の営業マンだぞ。皆宜しく頼む。」
思いがけない人事異動に、女子社員が少しざわめいた。確かにかなりイケメン。
あれ、そういえば今日ってこないだ占ったときから3日後…?
運命の人との出逢いがあるって、まさか榊さんとのこと?
その夜は、部署での榊さんの歓迎会が開かれることになった。
明るくてフレンドリーで皆の中心にいる榊さんと、隅で話を聞いている私。
3日後の出逢いってこれのことだったのかなあ。素敵だけど、やっぱり私には手が届かないような存在な気がする。
そう思っていた私の前に、カクテルの入ったグラスがトンっと置かれた。顔を上げるとその榊さんだった。
「まだちゃんとご挨拶出来てなかったですよね。なんだか顔色が良くないようですが大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です!お構いなく…」
「遠くから見てて、少しお話したいと思ってたんです。」
思わず、ドキッとしてしまった。
でもどんな人にもフレンドリーなんだなと、自分に期待しないように言い聞かせた。
どうしたらいいの?
その夜、歓迎会から帰って家で一息つくと、突然元彼からのLINEが来ていた。
「最近どう?会いたいんだけど。」
驚いて、とっさに返信を打とうとしたけれど、ふとこないだの復縁の相性占いを思い出した。
復縁を求めてくるけど、彼は私の最良の相手じゃない…?
それと同時に榊さんの存在も頭によぎり、もう一度運命の相手との展開を占ってみることにした。
彼はあなたに想いを寄せ、積極的に距離を縮めようとしますが、あなたの控えめな態度から、あと一歩踏み出せないようです。素直になることで運を引き寄せます。そしてあなた自身の過去の恋愛トラブルをきっかけに、彼はあなたを守りたいという気持ちが高まり、想いを伝えてくれるでしょう。
過去の恋愛トラブル…?過去って、元彼のこと?
トラブルというか、ちょっと連絡が来ただけだけどどういうことなんだろう。
そのまま、元彼へのLINEは返すことなく携帯を閉じて眠りについた。
運命の日
ある日、仕事を終えて帰ろうとすると榊さんに会った。
「帰るところですか?僕ももう終わりなんで、せっかくなら一杯飲みにいきませんか。」
「あ、でも…」
素直になれないのが私の癖だ。でも、あの占いを信じてみてもいいのかも。
「行きます!」
お店に入る前に、ふと携帯を見ると元彼から長文そうなLINEが来ていた。
返信してなかったのにまた何だろう…まあ後で見よう。
彼が最近見つけたというおすすめのお店に行き、飲みながら色々な話をした。
彼は営業マンなだけあって話が面白く、私自身も私らしくいられる気がした。
「そういえば、この間の歓迎会の写真見ました?榊さん凄い顔している写真ありましたよ。」
「えっそれは困りますね(笑)。見せてくださいよ。」
そう言いながら、歓迎会の写真を2人で見返していると、今度は突然元彼から電話がかかってきた。
「あ、すみません、電話出て大丈夫ですよ。」
「いや…でも…。」
榊さんに見られちゃった。でも、もう電話なんて出たくないし…と思っていたら電話切れた。
しかし、またすぐかかってきた。
私の表情が曇り、榊さんも不審に思ったのか、
「何だか様子が変だけど…電話の相手どなたか聞いてもいいですか?」
「実は、元彼なんですけど最近しつこく連絡がきて…」
「そうだったんですか。えっと…」
そうしている間にも電話は鳴り続けていた。すると、榊さんは私の代わりに携帯を取った。
「もしもし」「あの…」
と落ち着いた声で話し始めたが、すぐ電話は切れたようだった。
電話口が男性だと分かり、元彼も察したのだろう。
「ありがとうございます。変なことに巻き込んでしまいすみません。」
「いえ、僕もすみません、いきなり出てしまって。でも多分もう、大丈夫だと思います。もし、またかかってきたら僕が何とかするので。」
すると、榊さんがまっすぐ私の方を向き直し、手を握り、真面目な顔をして言った。
「決心出来ました。あの、驚かせてしまうかもしれないんですけど、僕と結婚を前提に付き合ってください。」
私の手を握る彼の手は力強く、温かかった。
そして…
あれから、私は榊さんの告白を受けて結婚を前提に付き合うことになった。
大学時代の友人にそのことを伝えると、
「あの時の由美、なんだかモヤモヤしていたもん。良かったね、本当の運命の人に出逢えて。」
今ふと思うと、榊さんが告白してきてくれたのは出逢ってから2週間後。
占いで書いてあったタイミングとぴったり。やっぱり、運命の相手は榊さんだったんだ。
あの後、元彼のLINEはブロックし、連絡が来ることはなくなった。
そして、榊さんと付き合い始めてからはあっという間に時が過ぎ、来月には同棲することになった。ちょっと前まで、こんな未来になるなんて思ってもみなかったのに。
あの占いを見ていなかったら、私は運命の人を間違ってしまっていたかもしれない。
完全に信じた訳ではないけど、あの時に見た占いが私の背中を押してくれた気がする。
もし、私みたいに迷うことがあるなら、ちょっとだけ占いに頼ってみて。
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