※あくまで個人の感想であり、効果を保証するものではございません。
アラサーになってから、全然会ってなかった学生時代の友達から急に連絡が来たら、大体は結婚式のご招待と相場が決まってる。
「実は、私結婚することになったの!結婚式来てくれる?」
今年もう3回目だなあ…と思わずため息が出そうになるLINEが来た。
ちょうど30歳になる学年だから、同級生はみんな結婚ラッシュだ。ご祝儀で頭が痛くなるほど結婚式が多い。
『おめでとう!ぜひ!』
『ありがとう~次は沙織の番だね^^』
もうひとつため息をつくと、既読はつけずに読んでいた漫画アプリに戻った。
結婚はおろか、自分には彼氏もいない。
やっぱり婚活しないとだめか…
なんとなく落ちこんだ気持ちになったので、洋服でも見ようかとスマホを開くと、ふと無料の占いが目にとまった。
一番気になるあの人の気持ち
彼氏はいないけど、実は憧れている人はいる。
うちの会社の売上ナンバーワンの営業さんの、渡邉さん。
配属されたときからずっと経理の仕事をしている私とはあまり接点がない。
私だけじゃなくて、いろいろな人が渡邉さんを狙っているけど、不思議と恋愛の噂は聞いたことがなかった。
女子社員の間では、“学生時代から長い彼女がいるんじゃない?”ということで落ち着いている。
書類を渡してもらうときや、少し話せたときにはドキドキするけど、私が付き合える可能性は限りなくゼロに近い。渡邉さんを見るたびに苦しい気持ちになるけれど、相手にされないのを分かっていてアタックができるほどの勇気は無かった。
…そういえば渡邉さん、来週の水曜日が誕生日って言ってたな。
『なかなか進展のない恋…今あの人にとってあなたはどんな存在?』か…
ちょっと気になったので、占ってみることにした。
当たっているような…いないような…
このカードが出たということは、あの人は人に好かれやすい性質です。しかし、見かけとは裏腹に心を許せる人はそこまで多くありません。
確かに、人あたりが良いわりにはいつも一人でいるイメージがある。
驚くかもしれませんが、密かにあの人はあなたを気にしているよう。チャンスがあればゆっくり話をしたいなと思っているようですよ。
うーん…確かに渡邉さんの人となりは当たっているのかもしれないけど、部署も違うし…こっちはあまり当てはまらなさそう。
そのサイトを閉じて、占いをしたことをすっかり忘れていた。
彼を見ていただけの私に小さな急展開
それから3日後、私は渡邉さんの上司に怒られていた。
「なんでこんな凡ミスするかなあ!地味で仕事できないなんて良いとこ一つもないね君!」
―地味なことは今関係ないじゃん…
そもそもこの人が連絡してないせいな気がするのだけど、この人は一度怒り出すと始末がつかない。
すると、渡邉さんがそばに来て私の肩をぽんとたたくと、上司に向かってしゃべりはじめた。
「部長、過去のメールを検索してみたんですが、部長からのご指示は特にありませんでしたよ」
「…そうだとしても、事前に確認すべきだろ!」
「そうですね、担当の僕が部長に確認するべきでした。申し訳ありません。でも長沢さんは関係ありませんね」
「…まあそうかもな」
もう一度渡邉さんが頭を下げると、私の腕を少し引っ張ってその場から連れ出してくれた。
「部長のことは気にしないで。先方にはうまくフォローしておくから」
「…ありがとうございます」
「そもそも長沢さんがずっとやってくれてただけで、部長から毎月データを経理に送らなきゃいけないやつじゃない?」
本当に渡邉さんの言うとおり。でも、そんな小さいこと、見てるだなんて思わなかった。
「…そう!そうなんです!」
「だよね、部長には言っておくよ」
遠くから見ていただけの渡邉さんだったけれど、本当に付き合いたくなってきてしまった。
再び占い。近いうちに「きっかけ」が?
その後、改めてこの前の占いをまじまじと見てみるとやっぱり当たっている気がする。
-渡邉さんと付き合える可能性はあるのかな…?
思い切って登録して、「渡邉さんから見た私」と、「2人の関係を劇的に変えるきっかけ」を占ってみることにした。
なんでも器用にこなすあの人にとって、あなた様は庇護したくなるような懸命さと、心の暖かさを備えています。しかしながら、他の異性と違ってあからさまな興味を示さないあなたに、あの人はどう接したらいいのかわかっていない様子。
あとほんの数日後にチャンスが訪れます。素直に受け止めて、余計な疑いを抱かないように。
うーん、そんなことあったらいいけど…。
正直期待してしまっている自分もいたけれど、所詮ネットの占い。信用しすぎないようにしないと。そう思ってサイトを閉じた。
チャンスの日
そして、2日後。仕事の都合でお昼が遅くなり、一人で会社の休憩室でお弁当を食べていると、渡邉さんがいきなり正面に座った。
「…はあ」
カロリーメイトを机に置いて背もたれに寄りかかると、私に聞こえるようにため息をつく。
-何か言ってほしいのかな。
気の聞いた言葉が思い浮かばず、そのまま様子を伺っていると、渡邉さんがしゃべりだした。
「長沢さんって癒されるよね」
「そうですか…?」
「普通色々喋りかけてくるでしょ、でもちゃんと様子伺うところいいと思う」
「そう、ですかね」
もっと喜びたいなと思ったけど、顔が赤くなったのを見られたくなくてうつむいた。
「卵焼き一個ください」
「あっ!私の…」
なぜか私のお弁当に入ってた卵焼きを横取りして口に入れると、これうまいね、お詫びに今日晩ご飯おごるわ。と言いながら去っていった。
決戦は…水曜日?
その日、初めてLINEを交換した私たちは始めてのやりとりをした。
なんで水曜日?と思いながら指定されたお店に着くと、先についていた渡邉さんが神妙な面持ちで座っていた。
「急に呼び出してごめんね、大事な話があるんだけど」
「えっ…?どうしたんですか?」
「僕と、結婚前提で付き合ってください」
-早すぎるかなあ、遊びだったりして。
その瞬間にふと、あの占いのことを思い出した。
あの人に余計な疑いを抱かないように。
「…こちらこそ、よろしくお願いします。」
「わー!よかった!俺今日誕生日だからいけるって思ったんだよ!」
いつもはしない渡邉さんのほっとした表情に、その場で答えてよかった、と思うことができた。実際、私たちはそれから3ヶ月後に結婚して、会社のみんなを驚かせることになる。
それから…
結婚が早かったのは理由がある。あの時、渡邉さんはあの部長からお見合いをかなり強く勧められていたそうだ。
結婚報告に行った私たちに、“それならそうと早く言えよ”と苦々しい顔で言われた。
ふと、もしあの日断ってたらどうしてた?と聞くと、見た目より心弱いから、それ以上いけなかったと思うわ。と笑っていた。
あの占いをしていなければ、私たちは永遠にすれ違ったままだったかもしれない。
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